ふらりと訪れた旅先が、そのまま住み込みの職場に。
カフェを開くという夢を叶えようと、故郷の奈良からやってきた塚本紋女(あやめ)さんは、地獄温泉「青風荘.」で調理の腕を磨いている。
奈良で生まれ育ち、短大卒業後も栄養士として、ほとんどを地元で生活してきた。
物腰柔らかで、ふんわりした雰囲気なのは、古都で過ごす時間のようにゆったりしている。そんな雰囲気とは裏腹に、世界を2周してきたという経験の持ち主だ。
栄養士の仕事を辞めたのをきっかけに、海外に行こうと思い立った。そのときは短期留学。シドニーに1カ月だけ滞在した。
滞在したことで海外熱が収まると思っていたら、「それから海外に行きたい熱が燃え出しました(笑)」。もっといろんな国に行きたい、経験をしてみたいという思いが募り、地球1周の船旅へ。「本来は参加費が120万円なのが、30歳以下は99万円のキャンペーンをやっていまして」。なにかのタイミングなのだろうと思い切って参加を決めた。
1,000人を超える人が船で過ごす3カ月の長旅だ。それだけの期間を過ごしても飽きはこないし、物足りなかった。旅を終えて船をおりたものの、やっぱり行きたい。もう1回参加することに。結局は地球2周で30カ国以上を巡った。
旅の中で印象的だったのは、南アフリカの貧困地区を訪れたこと。治安が悪く、恐ろしいイメージだったのが、いざ入ってみると「普通の日常がありました」と驚かされた。自分で行かないと分からないものなのだ。
そんな経験もあって、自分で体験して好きなことにのめり込んでいく。
帰国してからは、近所のカフェや農業レストランで働いた。調理していた野菜に興味がムクムク。今度は岩手の農家のもとに行き、2カ月ほど農作業を手伝った。農業と向き合ったことで「農業もいいな」と思うようになった。
もともと栄養士で料理も好き。ぼんやりと夢が形になってきた。
「農業と料理が好きなんで自分で作った野菜で料理を出せるようにしたいと思って、料理を学びたくなりました」
そう思っていた2020年の初冬に九州を旅行。知り合った人から阿蘇を紹介してもらい、足を伸ばした。
たまたまやって来たのが地獄温泉。偶然は続き、ちょうど青風荘.で求人を始めた時期だった。募集していたのは、厨房のスタッフである。接客も学べるうえに、住み込みなので住居にも困らない。温泉のある山裾からちょっと移動すれば、周囲には広大な田畑もある。
これも何かの運命と、その日のうちに応募。すぐに働きはじめることになった。なんとも軽やか。さすがは地球をぐるりと巡った旅人である。
料理の道は船旅のように順風満帆とはいかずに難しい。不甲斐なさに涙することも。それでも前向きに仕事に取り組んでいる。
「最近は大根のカツラ剥きが少しできるようになりました。まだ上手いって言えるほどじゃないんですけど。魚の捌き方も教えてもらっていて、マスターしたいなって思っています」
青風荘.では、和食、フランス料理、イノシシやシカなどを使ったジビエ料理に、バリスタの仕事まで、幅広く学ぶことができる。塚本さんの、のめり込む性格にはぴったりかもしれない。
休みの日には、知り合った近くの農家でお手伝い。仕事の息抜きが農作業というから、ワーカホリックな気がしないでもないが、本人はいたって楽しそう。
仕事の日も、休日も、毎日がやりたいこと。充実した日々が夢への一番の近道だ。
地獄温泉 清風荘.
地獄温泉のシンボルである「すずめの湯」は加温、加水せずに入ることができる。全国的にもほとんどない奇跡の温泉だ。湯浴み着を着用して老若男女を問わずに入浴することができる。
住所:熊本県阿蘇郡南阿蘇村河陽2327
TEL:0967-67-0005
◆日帰り入浴
営業時間:10:00~17:00(最終受付16:00) /定休日:火曜
料金:すずめの湯 一般1,200円、小学生600円
元の湯・たまごの湯 一般800円、小学生400円
すずめの湯+元湯・たまごの湯共通 一般1,600円、小学生800円
※いずれも税込
石川県出身。大学卒業後、地元新聞社で記者として6年半を過ごす。2014年退職後にランニングを始め、3カ月後にアマゾンのジャングルマラソンを完走する。年々フィールドを広げ、砂漠、山岳、雪上など国内外のレースに出場を続けている。ランナー、ライター、ニュースディレクターなどとしても活動中。