楽しい遊びはだいたい危険と隣り合わせです。幼い頃の楽しかった記憶をたどると、鮮明に覚えているのは刺激の強めな出来事がセット。阿蘇も同様です。火山活動がもたらしてくれる自然の素晴らしさ、リスクは表裏一体ではないでしょうか。
自然の中に入り、遊ぶにしても、幼少期のようには無邪気に危険なことはできません。
そんな方には、プロガイドの集うグループ「あそBe隊」のアクティビティがおすすめ。代表の薄井良文さんは、40年にわたり消防に携わり、山岳救助隊長も務めてきました。まさに、リスクマネジメントのプロです。
用意されているアクティビティは、マウンテンバイクでダウンヒルを駆け抜けたり、ナイトハイク、ロープを使っての崖下りなど、阿蘇の大自然を満喫できるプランばかり。希望に応じてプランをアレンジしてもらうこともできます。
「体力に自信がないという方でも楽しめます」と薄井さんが笑顔に自信をにじませます。
阿蘇出身の薄井さんならではの楽しみ方。紹介されたのは、E-バイクを使ったプランでした。電動アシストがついているから、普段から運動をしていなくとも、坂道でもスイスイ登れます。阿蘇神社を出発し、ずっと登った末に中岳山上へ。そこで噴火口をのぞき込んで、ふたたび街中に戻って、優雅にランチを取るとか。
牛たちがたたずむ草原は、阿蘇を代表する特徴的な風景です。ちょっと入りたくなりますが、地元の農家さんたちがつくる「牧野組合」で管理されています。外部から伝染病を持ち込ませないように、立ち入り禁止になっている草原が少なくありません。
地元出身ということで、薄井さんが特別に許可をもらい、しっかりと対策をした上で、自転車で草原を駆け抜けることが可能になりました。
噴石や火山灰、牛馬のドロップス(お尻から出すアレです)を避けながら走る「阿蘇山スラローム」もあります。「牛の横を駆けていくのは特別感がありますね」と薄井さん。転ぶと危ないのでは?と尋ねると「ケガはしないけど、痛い思いはするかもしれませんね」と、サラリと返されました。
危なそうに思えても、安全に楽しめる。あそBe隊のアクティビティの特徴のひとつです。「リスクマネジメントは僕の専門です」と薄井さん。長年にわたり、消防、山岳救助に携わってきたエキスパートの経験に裏付けられた言葉です。
「安全を重視しすぎると面白くなくなります。どこを管理すると、面白さを損なわずに体験してもらえるのかを考えます。ここはロープをつたって下りた方がいいな、あるいは、こっちはやめておいた方がいいな、という危険度を見極めながら、楽しく、達成感を得られるように設計します」
草原でのツーリングを楽しんでもらいつつ、薄井さんは草原が人の手によって守られてることも紹介してくれました。草原はそのままにしておくと、森に還ってしまいます。そこに、定期的に人が入り、野焼きをすることで阿蘇の景観は維持されているのです。
薄井さんはそうした現状をツアー参加者には伝え、草原を管理している牧野組合には参加費の一部を毎月お支払いしている。
あそBe隊の活動は、さりげない学びや気づきで溢れています。ガイドだからといって、あれこれと細かく紹介しすぎることはありません。薄井さんは、体験の中で参加者に感じ取ってもらうことが大切だと考えています。
「体験中にお客さんが興味のない話を続けていても、あまり残りません。体験を通じて、お客さんの中で生まれた驚きや興味に合わせて、説明するようにしています」
参加者としっかり向き合い、相手のことを見ていないとできないことです。
専業のプロガイドがほとんどいない阿蘇では、薄井さんの存在はとても珍しく映ります。それは現在だけでなく、勤めていた頃からも周囲にはいない存在だったそうです。
高校卒業後に入った東京消防庁時代は、駒澤大学の夜間部に通い、教員免許を取ろうとしました。父親が早世して仕事も大学も辞めて、地元に戻って家を守ることに。そこからは、2年間ほど観光のアルバイトを経て、阿蘇消防での中途採用の募集に手を挙げ、勤めることになったといいます。
「異端児でした」と薄井さんは自身のことを振り返ります。
休みの日は、農業の手伝いか、パチンコに通う仲間が多い中、登山、海で潜ったり、パラグライダー、スキーとアウトドアに明け暮れました。さらには、社会教育のボランティアまで。パラレルワークとして、青年の家で子どもたちにキャンプの仕方を教えるなどの活動に取り組みました。
「自分の中に、ずっと中途半端な感じがしていました。東京消防庁を途中で辞め、大学も卒業してないというのがあって。だからなのか、動いてないと、止まっちゃうと、そのまま終わっちゃうかなというのがありましたね」
立ち止まることをよしとせず、定年を迎える3年前に退職して、あそBe隊のガイド部を立ち上げたのが、2015年4月1日のことでした。薄井さんは、地元・阿蘇の魅力を伝えつつ、いかにして自然と接すればいいのかという本質にも触れてもらいたいと考えています。
「阿蘇というのは災害の多いエリアです。おだやかな自然もあれば、時には牙をむくこともあります。そこにどう対峙していくかを感じ、考えていただく。とても大切なことです。それは、どう生きるかということにもつながります」
現在の目標は、自然と人をつなげる若いプロガイドを育てること。人命救助に尽力してきたエキスパートは、阿蘇の自然を守り、次世代に伝えることが人生を懸けた仕事だと自覚しています。
阿蘇人(あそんもん)だからできる、阿蘇だけで味わえるダイナミックな自然体験。「あそBe隊」へのお問い合わせはこちら。
石川県出身。大学卒業後、地元新聞社で記者として6年半を過ごす。2014年退職後にランニングを始め、3カ月後にアマゾンのジャングルマラソンを完走する。年々フィールドを広げ、砂漠、山岳、雪上など国内外のレースに出場を続けている。ランナー、ライター、ニュースディレクターなどとしても活動中。