阿蘇の暮らしで嫌なところはそれだけ。ほかにはパッと思いつかない。
2020年7月に移住してきた高野有紗さんにとってカルデラの中で過ごす日々はとても充実している。
生まれは福岡。中学生のころに屋久島へ移住して、高校を卒業するまでを離島で過ごした。思春期ど真ん中のころは刺激が足りなかった。
「屋久島は何もなくてやだ。って思って、何でもあるところに行ったんですよ。だけど、何にもなくてもいいや!って今は思っています」
福岡の専門学校を出て、東京でアパレル会社に就職して20代の大半を過ごした。求めていた刺激はあるが、慣れてしまえば刺激も日常の一部に。それまで憧れていたものは憧れではなくなっていく。
都会暮らしが色あせる一方で、場所に縛られずに暮らせるようになりたい。そんな思いが膨らんでいった。そして関西への引っ越しをはさんで、阿蘇にやって来た。
移住のきっかけは、ハーブや薬草を学びたいと考えたことにあった。都会的な暮らしから興味関心が変わり、はじめに思い浮かんだことである。もともと、屋久島に移住したきっかけも母親が薬草を使った自然治療を学ぶためだったという。
「腎臓が弱いからって、小さいころから、母が入れてくれたハーブティーをよく飲んでました。私は母のように仕事にして稼げるとは思ってないんですけど、同じように自分や身近な人にお茶を出して癒やせるようになるといいなって」
思い立ったら即行動というのは母譲りなのだろう。Google マップとにらめっこして、薬草を学べそうな場所を探して回った。そして出会ったのが「阿蘇薬草園」だった。
電話をかけてみると、ちょうど薬草園が求人募集を始めた日というタイミングのよさ。その日のうちに仕事が決まった。勤務は土日と水曜。仕事が決まったら次は住まい、である。
阿蘇の不動産を扱う「アソウト」を頼ったところ、その日のうちに新居、さらにはもう1つの仕事を紹介してもらえた。平日は雑貨や家具も扱うカフェ「おしま屋」で働けることに。とんとん拍子の移住である。
移住するまでは慌ただしい流れだったが、阿蘇での日々はゆったり。現在の住まいのお気に入りは、窓から見える阿蘇外輪山の山並みだ。
JR阿蘇駅に近い国道212号線からの景色もオススメという。「すごく開けてて、初めて行ったときから、ここスゴくいいなって」。海に囲まれていた屋久島とは異なり、ぐるりと山々に囲まれた風景にも魅力を感じている。
氷点下まで冷え込む冬場は苦手。初めての阿蘇の冬は寒さに慣れることができなかった。耐えられなくて、広いリビングを使わずに温めやすい1つの部屋にこもっていた。
寒さをのぞけば、屋久島と阿蘇は似ているところがあるという。屋久島の大きさは阿蘇のカルデラにすっぽりと収まってしまうサイズ感だ。だから、というわけではないが、高野さんには新天地も「阿蘇はちょうどいいですね」と暮らしやすさを感じている。
「お店もあるし、観光地だけど、何もないと言えば何もない。人とあまりすれ違わないとか、買い物をする場所もそんなに多くないのは、屋久島と似ています。でも、離島みたいにアマゾンがすごく時間かかるってこともないし、買い物行こうと思ったら、船に乗らなくてもいいですし。だからちょうどいいです」
それまで苦手だった車の運転も得意になった。都会だと車線が多かったり、運転が荒い人もいたり。「こっちは優しかったです(笑)」。季節ごとに地域になじんでいっている。
生活の充実ぶりは、新しいチャレンジにもつながっている。ずっと趣味で描いてきたイラストが徐々に仕事につながってきた。SNSで見つけた「かわいい女の子」を描いてきたところ、「意外と反応がでて」きたのだという。
イラストの仕事を頼まれることもあり、4月3日からは初めての個展を開催している。
ゆくゆくは屋久島に戻り、自分の店を持つのが夢だったが、少し夢が変わってきた。
「1年のうち、半分こっちにいて、半分は屋久島に行きたいです。冬は阿蘇を離れたいです(笑)」
寒いのは本当に嫌い。けれども、阿蘇はもう自分の居場所なのだ。
阿蘇薬草園
農薬、化学肥料を使わず、草取りをしない「3NO主義自然農法」を提唱、実践して薬草を育てている。収穫した薬草を自社工場で加工し、直火焙煎でお茶などに仕上げている。公式オンラインストアで購入も可能。
住所: 熊本県阿蘇市一の宮町宮地3321
TEL : 0967-22-8070
営業時間:10時30分〜16時/定休日:木曜、祝日(年始は営業)
おしま屋
阿蘇の魅力を味わってもらおうと、厳選した野菜や果物を使ったスムージー、パンなどを提供している。もともとは家具屋から創業。現在も店主の古田ゆかりさんが集めた雑貨や家具が、商品として店内に所狭しと並んでいる。
住所:熊本県阿蘇市内牧365
TEL:0967-32-0041
営業時間:10:00~19:00/定休日:水曜
石川県出身。大学卒業後、地元新聞社で記者として6年半を過ごす。2014年退職後にランニングを始め、3カ月後にアマゾンのジャングルマラソンを完走する。年々フィールドを広げ、砂漠、山岳、雪上など国内外のレースに出場を続けている。ランナー、ライター、ニュースディレクターなどとしても活動中。