つむぐ、つなぐ綿のはなし

INTRODUCTION

阿蘇は九州のほぼ真ん中、大昔の大きな噴火でできたカルデラに約71,000人(2017年)が住んでいる。その雄大な景色に囲まれると、日本ではないような、どこかの大きな大陸にいるような感覚になる。そんな阿蘇で暮らす「阿蘇人」にお話を伺い、阿蘇で働くこと暮らすことを知る『ASO LOCAL WORK AND LIFE』。
#02は埼玉から阿蘇へ移住し和綿を繋ぐ活動をされている竹腰満里江さんのお話。(取材日 2018.10.06 / 2019.04.15)

繊維のことがもっと知りたい。

霧のような雨が降っていて、山には煙みたいな雲。時より吹く風がすこし冷たくて心地よい。こんな日はつい、ぼーっと阿蘇の山々を見てしまう。九州は南国で年中暖かいイメージを抱くひとも多いかもしれないが、阿蘇は標高が高くエアコンが付いていない家も多い。それだけ夏は涼しく過ごしやすい。そんな土地で育つ米は涼しい夏をゆっくりと成長するので甘みが増すそうだ。

今回お話を聞く竹腰さんとは、南阿蘇にある「GIAHS CAFE」(ジアスカフェ)で初めてお会いした。「GIAHS CAFE」の前には収穫前の田んぼと畑が広がっている。目の前の畑から収穫したナスをのせたタイカレーが今日のランチ。その畑のナスの隣に育てられている、白くてフワフワとしたもの。自給率ほぼ0%といわれる国産の綿花、和綿だ。

「洋綿は上向き、和綿は下向きなんです。下に綿をつけるのは雨が多い日本で育つからでしょうかね。」

ふわふわとしたコットンボールを愛おしく手に乗せて話す竹腰さんに、なぜ綿に興味があるのかを聞いた。

「高校で羊の糸を染織する授業があったんです。それで興味が湧いて、高校を卒業して、もっと繊維のことが知りたいと考えていたときに、たまたま見た広告に千葉の鴨川和棉農園がワークショップをしているというのを目にしたんです。すぐに電話しました。今日は本を持ってきたんですけど、主催者の田畑健さん(著書『ワタが世界を変える―衣の自給について考えよう』地湧社)に、栽培、糸つむぎ、作品作りまで、なんども通って学びました。」

「阿蘇には埼玉の高校時代から縁があって、農業体験で阿蘇に来たことがあるんです。すごいたのしくて、1週間のつもりが、2週間、3週間と夏休みほとんど居させてもらいました(笑)。高校卒業後は、修学旅行で行った与那国馬の在来馬を使った観光に関わりながら3年ほど沖縄県に住みました。埼玉県は海がないから感動するんですよ〜(笑)。ただ、ずっと沖縄にいるのはちがうかなぁと思っていて、農業体験に行った阿蘇に沖縄からそのまま移住してきました。」

地元にちょこちょこ戻っては感傷に浸っていた僕は少なからず驚いた。この行動力はやりたいという目的から生まれているのだ。

棉から綿へ。糸から布へ。

「沖縄にいる間も阿蘇に移住しても、ずっと綿は育てています。和綿の種は持って3年なんです。だから、毎年育てて繋いでいかないといけないんですよね。今年はすこし小ぶりのタネだけどね、しっかりできたから。大丈夫。」

僕は肌触りが好きで綿のものを好んできているけど、思っている以上に栽培から布にするには手順がある。竹腰さんの主催されるワークショップでは以下のような栽培から布にするまでの体験できる。

栽培

※南阿蘇の気候の場合


草取り&土寄せ(5月から8月)

棉苗が成長するまで雑草を取り、土寄せしながら畝を立てる

摘芯(7月)

株の先端を摘み取って徒長を防ぎ、結実を促す

開花・結実(7月から9月)

黄色い花が咲き、実(コットンボール)が付く

収穫(9月から12月)

実が枯れ、殻がはじけて、中から白い棉がふきだす。垂れ下がるようになった棉を収穫し、2日ほど天日干しする

収穫後の手作業


綿繰り

収穫した棉を種とワタ(繊維)に分ける作業をする。少量なら手でもちぎり取れるが、多量の場合は綿繰り機を使う

綿打ち

糸を紡いだり布団にするために、繊維をほぐす。東洋では弓で打つことでほぐしていた。西洋ではハンドカーダーの針でほぐし、現在は機械を使った綿打ちは大型のドラム・カーダー機を用いている

篠づくり

打った綿のままで紡ぐと切れやすい為、綿を丸めて紡ぎやすくする。地域によって「じんき」「よりこ」など呼び方が違う

糸紡ぎ

回転で撚りをかけながら糸を紡ぐ

織り

卓上織り機や高機で織る

「和綿がいいと思っているのは、洋綿よりも毛羽立ちがあることなんです。実際、暖かく感じるし、毛羽立ちが紫外線を防いでくれると言われているんですよ。なので帽子作ったらいいかな、なんて思ってます。やっぱり一番いいのは自分で栽培できるからですね。羊も飼えるけど、羊の毛は自分の肌がかゆくなっちゃうんですよ。綿のマフラーは全然かゆくならないんです。より自分に身近だと感じるから綿の方がいいなぁと思っています。」

「洋綿は大量に収穫できて効率がいいんですけど、沢山の農薬や殺虫剤とか使わないと日本で育てる場合は難しいんですよね。そもそも、輸入の方が作るより安いのですけど。それと比べて和綿は、肥料も多く要らないで育てられるし、痩せた土地でも育つと言われるんですよね。昔は、山を切り開いて畑にする時は、綿か大豆か蕎麦だったんですよ。中でも綿は根が張るので、抜いた時に耕した状態になると言われてます。昔はそれが自然とあったんですよね。」

長年受け継がれた知恵を改めて捉え直す時期に来ている、地域には知識や技術を持った人がたくさんいる。その知恵を受け継ぎ伝えていく人が必要だ。

「南阿蘇の学校では部活動やクラブ活動がなくなるので、子どもたちに文化的なことを教える機会がますます少なくなってきてるんです。綿を繋ぐワークショップの他にも地元の小学校で棉を育てたり、糸を紡いだり、食をテーマにしたものなどでクラブ活動のお手伝いをしていければなと思っています。大人が楽しんでいると子どもも楽しんで関わってくれるんです。それが文化をつなぐということなんじゃないかなと思っています。」

竹腰さんは綿を繋ぐ活動の他に、移住者と農家など5人で立ち上げた「お結びfarm」でも活動をしている。「お結びfarm」では衣食住をテーマに、南阿蘇らしい体験ができるユニークなプログラムが生まれている。これまでに、子ども向けのプログラム「むしむしキャンプ」(虫を研究している人に調査するフィールドを提供する代わりに、研究者は子どもたちに虫のことを伝えるキャンプ)や、「焚き火BAR」(子どもも大人もたのしめるキャンプ)などを開催している。2019年はもち米の田植えから食べるまで体験するワークショップを開催予定。参加者も主催者も共にワクワクして、一緒に楽しめるプログラム。竹腰さんをはじめ、メンバーの自分たちが面白いと思ったことをやる姿勢にとても共感できた。ぜひ今後開催されるプログラムに子どもと参加したい。下記のfacebookリンクから活動の詳細や応募方法をチェックできる。

竹腰さんの主催されている、綿を育て、作品をつくる「和綿手紡ぎワークショップ 〜棉から綿へ 糸から布へ〜」に興味のある方は、「三つよりの糸舎」facebookページまで。

「お結びfarm」
農業や食に興味のある子育て世代の主婦5人で、衣食住をテーマに、それぞれのキャリアを活かしながら楽しく暮らす体験型のプログラムを企画・運営している。

竹腰満里江(たけこし・まりえ)
1980年(昭和55年)埼玉県生まれ。「お結びfarm」のメンバーとして主に和綿栽培を担当。和綿の日々の様子を「三つよりの糸舎」にて発信している。