簡単ではない簡單生活

INTRODUCTION

阿蘇は九州のほぼ真ん中、大昔の大きな噴火でできたカルデラに約71,000人(2017年)が住んでいる。その雄大な景色に囲まれると、日本ではないような、どこかの大きな大陸にいるような感覚になる。そんな阿蘇で暮らす「阿蘇人」にお話を伺い、阿蘇で働くこと暮らすことを知る『ASO LOCAL WORK AND LIFE』。
#01は「簡單生活」というライフスタイルを提唱されている中林之隆さん。現在、その考えに基づいたカンタン住宅をセルフビルドで建てられている。単に簡単という意味ではなさそうな「簡單生活」とはいかなるものなのだろう。秋が訪れようとしている南阿蘇、カンタン住宅の現場を訪ねた。(取材日 2018.10.06)

始まりは竹細工。

―中林さんは家を建てられてますけど、お仕事は大工ですか?

大工仕事をしています。

―大工とは言わないんですね。

自称「造形や」です。周りからは、大工と思われています(笑)。

―南阿蘇に到達するまでの物語が色々ありそうです。

出身は神奈川県の厚木です。九州に来たのは27歳でした。別府に竹細工を教える職業訓練校あったんです。そこで竹細工をしていた妻と知り合い、湯布院で暮らしました。その後、南阿蘇(旧長陽村)のアートイベントがご縁で、南阿蘇に移住しました。

最初は、竹の造形をしていたんですけど、友人から誘われて店舗の内装をしているうちに気がつけば、大工仕事をしていました。南阿蘇で子どもが生まれて、2008年、妻と当時2歳の娘と天草に移住しました。天草は山も海もあって子育てには最高の場所でしたね。2019年の春に、その子どもの中学入学なので、南阿蘇にUターンすることにしました。その時に住む家を今、建てています。

―そんな、トントン拍子じゃないですよね。

はい。自分のやりたいと思うことで生活できるまで、15年かかりました。いつかは自分の家を建てたいと思っていたので、その技術が身に付くまでには、20年かかりましたね。

10年限定のカンタン住宅。

基礎工事が終わった頃に伺った

―この土地は買われたんですか?

ここは借りています。お金はないけど、自分で家を建てることは決めていたので、南阿蘇の飲み会で、「お金がないけど、技術はある。技術の伝承をしながら、家を建てて、10年住みたいがどうしたらいいだろう?」といった内容のヒヤリング的なプレゼンをしました。すると、しばらく使う予定のない土地があるから、使っていいですよと言われて、トントン拍子で進みました。

借地料は無料で、家を建てる材料費も地主さんが持ち、技術の継承をしながら、自分の好きなように家を建てて、10年経ったら家と土地を地主さんにお返しするという条件で、話がまとまりました。人件費は出ないので、10年分の家賃は自分の労働力で前払いするという感じです。

―自分の労働力を家賃にするというのは、聞いたことのない契約ですね。

全くの想定外だったんですけど、このお話を地主さんから提案いただいた時、面白いなと思いました。私たちは、家族や子どもの成長に合わせて住むところを変えるつもりだったので、永住するつもりはなかったし、家づくりの実験もしたかった。地主さんも、10年たったらこの場所と建物を使ってやりたい夢があるということで、win-winな関係になりました。

―働き方の新しい可能性を感じます。

そうなんです。他の場所でもできるんじゃないかなと思っています。約束の時が来れば、お互いに次のステップに移るような。

自分で見つける暮らし方。

手書きの図面、中林さんの頭の中ではすでに完成しているのだろう

―「カンタン住宅」はどのような形になるのでしょうか。

申し訳ない図面だけど、この手書き2枚の図面だけで進めてます。シンプルな切妻の屋根の高床式で、家族3人が最小限のスペースで暮らせる20坪くらいの小さな家です。

私たちの屋号でもある「簡單生活」は家族のコンセプトなんです。妻と二人で湯布院に住んでいた時、台湾の旅行者が私たちの生活を見て、英語でシンプルライフだねと言ったのを聴き取れなくて、漢字で書いてもらったのが「簡單生活」だったんです。それがすごく気に入ってそのまま使っています。

よく、簡単にできるから「カンタン住宅」なんですよねと言われるんですけど、そうではないんです。うまく説明できないのですが、「その土地にあるものや人でできる技術を使った住宅」という感じです。「適正技術」という言葉が近いかもしれません。


―自分にとっての適正とか、最適なところを見つけるって簡単に聞こえるかもしれないけど以外と難しいですね。

そうなんですよね。私の考える「簡單生活」は、今ある環境の中どう臨機応変に生きるか、自然を含めた世の中に負荷をかけない生活ができるか、結果的に循環型の生活になっていたというのが理想です。その建築版が「カンタン住宅」です。「簡單生活」に行きつくまでのプロセスは人それぞれでいいと思います。自身にとって何が最適なのかを見つめることで、余計なものが削ぎ落とされて、簡單な生活になるんではないでしょうか。と言うと硬いイメージですけど、自分のペース進めるとか、うまく気を抜くこととかも含まれてます(笑)。

―これから「カンタン住宅」が出来ていくのが楽しみですね。

よかったら、ちょっと手伝っていきませんか?今日は角のみ機を使って、穴あけする作業です。柱が立つ場所の重要なところですよ(笑)。

基礎は設備工事に使う紙パイプを利用してコンクリートを流し込んだ
角のみ機を使った作業のレクチャーを受ける
おがくずを出しながら、あっという間に穴が空いた
ひとつひとつの作業はそこまで難しくないと中林さん

私たちは、中林さんの作業を少し手伝った。
木を削る大きな音が響く。作業が止むと、大きな音は雨と鈴虫の音に変わった。

「簡單生活」の考え方は、自分の心地よさを徹底的に追及した中林さんの視点とそのバランス感覚から生まれたものだろう。それは決まった方程式があるわけではなく、何をやるかも含めて自分自身で気づくことなのかもしれない。自分にとっての心地よさってなんだろう? そう中林さんに問いかけられているような気がした。
あなたにとっての「簡單生活」とは?

大きなカマキリが心地よさそうに休んでいた

中林之隆(なかばやし・ゆきたか)
1973年(昭和48年)神奈川県生まれ。造形や。九州に来て竹細工を皮切りに、現在は住宅や店舗のリノベーションやリフォームを行う。「簡單生活」という自身の考えに基づいた「カンタン住宅」をセルフビルドで建設中。

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