お菓子な本屋、井野書店

外壁いっぱいに描かれたインパクトのある絵。店先の木と、描かれている木が入り混じってトリックアートの様です。まるで絵本の中みたいに、絵と現実の狭間にいるような気持ちになって、「あの扉の中にはきっと楽しいことが待ってるに違いない!」そういう気持ちにさせてくれます。

 

その名も、『お菓子な本屋さん 井野書店』。どの様な本屋さんなのか!?真相を確かめなければ!

いざお店に入ると、所狭しと並ぶ駄菓子!瞬時に気分は小学生で、何にしようかワクワク、買う気満々になってしまいます。

今日はどんなお菓子を買おう、今度こそクジが当たるといいな、そんなはずんだ気持ちで駄菓子屋さんに意気揚々と通っていたことを思い出させてくれます。

店主の井野貴志子さんにお話を伺いました。

夢の本とお菓子のコラボレーション

井野書店の始まりは昭和37年。井野さんのお父様が本屋を始めたのだそうです。

 

“お菓子な本屋さん”ってすごく面白いなと思うんですが、きっかけは何だったんですか?

井野 ご近所の方と手作りのお菓子をつくって道の駅阿蘇に出していたんです。その流れで『阿蘇deスイーツめぐり』に参加するようになって。そこからお店にもお菓子を置くようになりました。『阿蘇deスイーツめぐり』は、3枚綴りの500円のチケットを購入すると、阿蘇のいろんなお店でお菓子と交換できる企画なんですよ。
面白いですね。どのくらいの店舗が参加しているんですか?
井野 参加されてるのは15店舗くらいですね。毎回毎回、参加店舗が変わるんです。阿蘇市内全体で開催されていて、”内牧”だけでなく道の駅阿蘇近くの”坊中”、阿蘇神社近くの”一の宮”の三つのエリアに分かれています。これは巡ってもらってそのお店を知っていただいて、チケットを使ってもらうのはもちろんですけど、お客様に回遊してもらう、というのを一番の目的にしています。お店に来てもらうきっかけですよね。

井野 7年前に水害があって、お店が全部浸かってしまったんです。本の在庫もすべて水に浸かってしまったので、水害後は本の在庫の面積を減らそう、ということになり、代わりにお菓子の面積を広げて駄菓子も置くようになりました。より“子供とお年寄りが居心地のいいお店”にしようということになったんです。

優しさからうまれる居心地の良さ

井野さんが“子供とお年寄りが居心地のいいお店”にしようとおっしゃるように、店内は様々な心遣いを感じます。

例えば、本棚に貼ってある『立ち読みは一冊まで』という注意書き。これは1冊なら立ち読みしてもいいよ。という心遣い。例え買えなくても、つまらない思いをしないように、そのときはお金がなくても、何度か立ち読みをして後に買ってくれる子供もいるそうです。
そして、何巻まで買ったかわからなくなる人のため、という理由もあるそう。

水害のあとに増設したイートインコーナーは、お年寄りや子供たちのためにゆっくりとできるスペースを提供できる広々としたつくり。おしゃべりをしたり、子供たちが土日に会うときの待ち合わせ場所になったりしています。

井野 内牧は昔すごく賑わってて、バスが何台も連なって来ていました。今はみんな郊外に移ってしまって、人通りは当時とは比べものにならないくらい減ってしまったけど、他にもまだ個性的なお店がたくさんあるでしょう?
内牧はまだ楽しいお店があるんだというのを知ってほしいんです。実際に来て歩いてもらうのが一番わかりやすいと思います。お店以外にも、大きなイチョウの木があったり、川沿いに行くと涅槃像と呼ばれる阿蘇連山が綺麗に見えたり、ビュースポットもたくさんあるんですよ。遊具がある『あそビバ』という施設もあるからお子様づれでも楽しめます。それがすべて、歩ける範囲にあるんです。

どこまでも阿蘇に寄り添い続ける本屋

井野 うちは行列店の『いまきん』さんの前ですから、土日ともなるとたくさんのお客様がいらっしゃいます。来年度は一部不通になっているJRも再開予定ですし、寸断された国道57号線も復旧します。やっと地震から復興してきたところで、もっともっと人も増えてくると思います。忙しくなりますよ。

一度は阿蘇市を離れた井野さん。しかし、帰ってきて阿蘇の景色を見たらホッとしたそう。今では、毎日「いい景色だな」と思って過ごしているという井野さんは、「阿蘇の景色って365日違うんです。それが阿蘇の魅力」と語ってくれました。

本屋には出会いがあります。著者の貴重な経験は、自分の人生となり積み重なっていきます。活字離れと言われますが、井野書店ほど本が身近に感じられる場所はないのではないでしょうか。お菓子を買いに行ったつもりでも、ちょっと一休みと思ってお茶するときにも、すぐそばに本がある。内牧にこんな本屋さんがあるなんてとても羨ましく思います。